芸能事務所等における契約上のトラブルについて
昨今、お笑い芸人の事務所問題、その他、芸能人の移籍に関して様々な問題が発覚しております。
某大手お笑い事務所では、所属の際に「契約書自体が無かった」という事実に世間がびっくりしましたね。
その他、アイドルやモデルを目指す方々の中には、事務所側が圧倒的に有利な契約を結ばされているケースも多いようです。
確かに、日本には契約自由の原則があり、契約内容は当事者同士が基本的に自由に決めることができる事になっており、その契約内容は履行(守る)必要があります。
しかし、一方で、日本国の民法には、公序良俗違反の法律行為の無効(民法90条)等があり、社会的に妥当性に欠けるような法律行為や契約は無効として、最初から無かったことになります。
・・・つまり、あまりにもおかしな契約内容は、守る必要が無いということです。
また、関係する法律としては、独占禁止法(独禁法)等があることも知っておく必要があるでしょう。
また、「契約」とは必ずしも「契約書」は必要ではなく、「意思表示の合致」により成立します。
つまり、例えばAという人とBという人の間で、
A:「こうしましょう」
B:「そうですね、そうしましょう」
という約束がされた瞬間に契約は成立するのです。
よく、「口約束でも契約は成立する」等と言われるのはこのためです。
しかし、口約束のみではトラブルの元になるため、契約書は必ず結んでおいた方がよいでしょう。
では、実際にどのようなトラブルがあり、法律上はどのように定められているのでしょうか。
(↓↓この広告を押して頂けると本当に助かります(スマホ版のみ)↓↓)
1.退所後の活動制限について
芸能事務所を退所後の当人の活動が、以下のように制限される契約を交わされる場合があります。
(1)他事務所への移籍禁止
・競業先(ライバル)への移籍自体を禁止するという条項です。
これはそもそも職業選択の自由(憲法22条1項)に反すると言えるでしょう。
一般的な企業として置き換えた場合でも、「転職禁止」とあるようなものです。
憲法に抵触するということは、当然にこのような条項は無効となります。
・また、某大手アイドル事務所に所属していたものの、別の事務所に移籍したタレントを起用しないように圧力を欠けていた行為も、公正取引委員会が独禁法違反の恐れがあるとして注意したというニュースも記憶に新しいでしょう。
(2)一定期間の活動の禁止
・他事務所への移籍やフリーとして活動する際に、一定期間の活動を禁止するという条項が盛り込まれるパターンです。
・上記と同様、競業先に移籍されるパターンや、知名度が上がって力を付けたタレント等が独立したりフリーで活躍される事を避けるためにこのような条項が盛り込まれ、業界としては「競業避止義務」として常態化していたようです。
・しかしながら、これについても、公正取引委員会は、独禁法における「優越的地位の乱用(独禁法19条(不公正な取引方法の禁止)及び一般指定14号」に抵触するとして、悪質な場合は行政処分に踏み切ると発表しました。ソースは下記です。
芸能事務所退所後の活動禁止契約は独禁法違反 公取委見解 - 産経ニュース
・場合によっては、「この条項に違反した場合に違約金が発生」等とされている場合もあるようですが、そもそもこの条項自体が、上記のように、独禁法違反とされているので、違約金自体も払う必要は全くないと判断してよいでしょう。
(3)芸名の使用禁止
・移籍やフリーになった後に、事務所所属中に使用していた芸名等をそのまま使うことを禁止とする場合もあります。
特に、芸名が本名であったタレントが改名せざるを得なかったという事件は衝撃的でした。
芸名等の使用を、元の事務所が制限してよいか否かについては、「専属契約が終わっているか否か」が争点になるようです。
・芸名ではありませんが、現在、事務所に所属していたYoutuberやインスタグラマーの独立や移籍も頻繁に行われているようです。この場合、所属中に使用していたアカウントはそのまま使っているケースもあるようです(チャンネル登録数が数百万単位ですから、そのまま使いたいですよね)。
Youtuberの独立の場合は、「使用していたアカウントをそのまま使ってはならない」という契約の有無等で揉めているケースがあるかどうかを調べましたが、今のところそのような揉め事は無いようです。しかし、今後は増えてくるかもしれませんね。
2.在籍中の不利な扱いについて
上記は、事務所退所後についての事例ですが、そもそも在籍中についても表面化し辛い様々なトラブルが常態化していることも、後々のタレント自身の告発・告白により徐々に明らかになってきております。
(1)不適切な給与体系
・睡眠時間が一日2時間~3時間という日が続いたのに、月給が5万円だった等、あまりにも低い報酬が強いられるケースです。
これについても、公取委は、「著しく低い対価での取引を要請」であるとして独禁法に抵触すると判断しております(独禁法2条9項第5号)。
・しかしながら、事務所と所属タレントの取り分について、どの程度が適切かというと判断は難しいと思われます。
マネージャーがしっかり仕事を取り、スケジュールの管理等もし、必要なレッスン等があったり、新人育成への必要な投資に回すという合理的な理由があれば、事務所側の取り分が多くなったりする事もある程度は止むを得ないとは思います。
・一方で、事務所に所属しているとは名ばかりで、事務所からは特に何のサポートもなく、フリーランスに近い形の業務であったにも関わらず、事務所側の売り上げの割合が多い場合は不当とも言えるでしょう。
(2)業務範囲外の業務の強要
・例えば、水着での仕事等、元々契約上は業務範囲に含まれていない業務を強要した場合も、不法行為が成立し、慰謝料を請求できる場合があります。
しかし、この場合、「業務範囲」がどの範囲であるかが明確でなく、揉める場合があります。
やはり、「業務範囲」も含めてしっかりと契約書を結んでおく必要がありますね。
・また、いわゆる枕営業の強要もいうまでもなくセクシャルハラスメントであり、強要罪(刑法223条第1項)も構成し得ます。
(3)高額なレッスン代等
・スカウトやオーディションを受けて、合格して、「所属タレントになって欲しい」と言われたものの、高額なレッスン代を要求されるパターンです。
・内容としては、「エステに行ったらスカウトされた」「エキストラのバイトに応募したらスカウトされた」等というものが多いようです。
・「自分にも才能があるかも」と思ってしまい、嬉しくなってしまうという心情を言葉巧みに突くやり口ですね。全てが詐欺とまでは言わないまでも、ほとんどの場合がまともなものとは言えないでしょう。
・このような場合、規定のレッスンを受けたとしても、仕事を実際に回す事などがなく、「売れようと思ったら更にレッスンを」等として、更にレッスン代を要求するような場合が多いようです。
・そもそも本当に売れているタレントやモデル等の経歴を訊いてみたりすると、ほとんどの場合が、「金の卵」としてスカウトされ、必要なレッスン等は受けさせるものの、無料であり、大事にデビューさせているパターンがほとんどのように思います。
詳しい事例は下記をご参照下さい。
タレント・モデル契約のトラブルにご注意を! 契約前に、「確認」「相談」「冷静な判断」を | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
3.まとめ
・タレントやモデルの業界というのは未だに闇に包まれている部分が多く、法的には不合理な事が常態化していると思われます。
・もし、自分の身に降り注ぐような事があれば、公正取引委員会や、弁護士に相談するとよいでしょう。公正取引委員会は無料で相談に乗ってくれますし、弁護士も初回の相談は無料であることが多いです。明らかにおかしなものであれば、初回無料相談内で解決してしまう場合も多いです。
・今回はタレント、モデルについて取り上げましたが、日常生活においてもちょっとした事で様々なトラブルに巻き込まれるリスクというのは常について回ります。
「法律」は正義や公平を守るためにありますが、残念ながらその知識や使い方を知らない人は不利益を被ってしまうというのが実状としてあります。
・一度結んでしまった契約であっても、あまりにも不合理だと感じた場合は、上記のように公正取引委員会や弁護士に相談し、泣き寝入りをする必要はありません。
・同様に、口約束で自分に都合の良い事を並べられても、契約は成立しておりますが、後々に「言った」「言わない」で揉める事を避けるために、キチンと契約書は交わしておくとよいと思います。
(お断り:上記記載内容については、一部公正取引委員会での発表等の事実に基づくものはそのまま引用しております。しかしながら、当方は弁護士ではありませんので、あくまでも参考程度に留めて頂き、個別具体的な事例に関しては、上記の通り、公正取引委員会の相談窓口や、弁護士にお尋ねください)
下記投稿では、気軽に法律問題の勉強ができる漫画などをご紹介しております。
法律系お勧めの漫画ご紹介 - ソースケのアメリカ駐在術・生活術
(↓↓この広告を押して頂けると本当に助かります(スマホ版のみ)↓↓)
米国駐在における、日米比較等は以下をご覧下さい!
sousuke22101243.hatenablog.com
米国駐在における陸マイラー、航空会社上級会員編は下記をご参照を!
sousuke22101243.hatenablog.com
ブログ村のランキングに参加していますので、良かったらポチっとお願いします!